「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2007.09.01 Sat
キトの真摯な眼差しに、トキワも表情を改める。
「“お願い”、ねぇ…。あいつの――ことか?」
その言葉に、キトは頷いた。
「兄ちゃんが島を出てから、もうふた月が経った。
連絡は一度もないし、兄ちゃんが帰ってくる気配もない。
みんな心配してるんだ。今頃、どうしてるんだろうって」
「だから、奴の行方を捜すってか。あまり――賛成はできねぇがな」
「どうして」
「あいつは自ら望んで、独りで出て行ったんだ。
そっとしておいてやるのが、思いやりってモンだろ」
しかしキトは、勢いよく首を横に振った。
「あの兄ちゃんが、何の理由もなく島を出たはずがない!
何か、わけがあるんだ。オレはそれを知りたい」
短い沈黙が落ちる。
先に口を開いたのは、トキワだった。
「――分かったよ。大陸で、あいつに関する情報が入れば、
おめぇに知らせる。それでいいんだろ?」
やれやれと溜息をついたトキワに、キトはぶんぶんと手を振った。
「いやいや、違う。違うよ、トキワ」
「はぁ? じゃあ、おめぇの言うところの“お願い”ってやつぁ、一体…」
そこまで呟いた後、察しのよい大陸商人は目を見張る。そして次に、苦い顔になった。
「おめぇ……まさか…」
対してキトは、へへへと笑って頬を掻く。
「そゆこと。いっちょ、よろしく頼むよ、“常盤屋”の旦那!」
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2007.09.01 Sat
「おっ。おめぇ、いい物に目ェつけたな」
言ったのは、大陸商人のトキワだった。
彼は年に数回、あちらの品を船に載せて、この碧峰島へとやってくる。
キトは自分の手の中に納まっている物をまじまじと見つめ、トキワに尋ねた。
「何? この短刀って、そんなによく切れんの?」
「いや、切れねぇ」
「は? 切れないのに“いい物”って、なんかおかしくね?」
「切れなくても、“いい物”なンだよ。その短刀は、ただのお飾りだ。
大陸で見つけたんだけど、
せっかくだから、碧峰の玉(ギョク)をあしらってもらおうと思ってな。
――でもいいや、おめぇにやるよ。持ってきな。
いつか、おめぇの役に立つかもしんねぇ」
切れない短刀がどう役に立つのか分からなかったが、
くれるものは貰っておくに越したことはない。
「……ありがとう」
ひとまず礼は言っておいた。
どういたしまして、とトキワは目を細める。
切れない、刀。
キトは短刀の柄をぎゅっと握り締める。ややあってから、顔を上げた。
トキワの目を、ひたと見据える。
「なあ、トキワ。お願いが、あるんだ」
2007.09.01 Sat
2007.09.01 Sat
2007.09.01 Sat