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「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2025.04.30 Wed
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2007.09.01 Sat


キトの真摯な眼差しに、トキワも表情を改める。
「“お願い”、ねぇ…。あいつの――ことか?」
その言葉に、キトは頷いた。
「兄ちゃんが島を出てから、もうふた月が経った。
 連絡は一度もないし、兄ちゃんが帰ってくる気配もない。
 みんな心配してるんだ。今頃、どうしてるんだろうって」
「だから、奴の行方を捜すってか。あまり――賛成はできねぇがな」
「どうして」
「あいつは自ら望んで、独りで出て行ったんだ。
 そっとしておいてやるのが、思いやりってモンだろ」
しかしキトは、勢いよく首を横に振った。
「あの兄ちゃんが、何の理由もなく島を出たはずがない!
 何か、わけがあるんだ。オレはそれを知りたい」
短い沈黙が落ちる。
先に口を開いたのは、トキワだった。  

「――分かったよ。大陸で、あいつに関する情報が入れば、
 おめぇに知らせる。それでいいんだろ?」
やれやれと溜息をついたトキワに、キトはぶんぶんと手を振った。
「いやいや、違う。違うよ、トキワ」
「はぁ? じゃあ、おめぇの言うところの“お願い”ってやつぁ、一体…」
そこまで呟いた後、察しのよい大陸商人は目を見張る。そして次に、苦い顔になった。
「おめぇ……まさか…」
対してキトは、へへへと笑って頬を掻く。
「そゆこと。いっちょ、よろしく頼むよ、“常盤屋”の旦那!」

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2007.09.01 Sat


「おっ。おめぇ、いい物に目ェつけたな」
言ったのは、大陸商人のトキワだった。
彼は年に数回、あちらの品を船に載せて、この碧峰島へとやってくる。
キトは自分の手の中に納まっている物をまじまじと見つめ、トキワに尋ねた。
「何? この短刀って、そんなによく切れんの?」
「いや、切れねぇ」
「は? 切れないのに“いい物”って、なんかおかしくね?」
「切れなくても、“いい物”なンだよ。その短刀は、ただのお飾りだ。
 大陸で見つけたんだけど、
 せっかくだから、碧峰の玉(ギョク)をあしらってもらおうと思ってな。
 ――でもいいや、おめぇにやるよ。持ってきな。
 いつか、おめぇの役に立つかもしんねぇ」

切れない短刀がどう役に立つのか分からなかったが、
くれるものは貰っておくに越したことはない。
「……ありがとう」
ひとまず礼は言っておいた。
どういたしまして、とトキワは目を細める。

切れない、刀。
キトは短刀の柄をぎゅっと握り締める。ややあってから、顔を上げた。
トキワの目を、ひたと見据える。

「なあ、トキワ。お願いが、あるんだ」

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2007.09.01 Sat


その島は、戦闘とは無縁の土地だった。
しかし鉱山で働く男たちにとって、日頃から己の体に鍛錬を積むことは
当たり前の慣わしのようになっていた。
そして島では、独自の体系をほこる武術が生み出された。
剣も槍も使わぬ、大陸とは全く異なる形態の武術が。
己の身一つを頼りに、自然の息吹と同調して力を発揮するという、
一風変わった武術が。
物心ついた頃から十三の歳を迎える今まで、
キトも、その武術を体に覚えさせて育ってきた。
キトの父もそうだったし、兄もまた、同じだった。
碧峰島の男達は皆、その武術を身につけることで「一人前」と認められるのだった。

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2007.09.01 Sat


島の名は、碧峰島。
その中央に聳え立つ碧峰山脈からは、貴重な鉱石である碧玉が採れる。
島で採掘された玉(ギョク)の数々は、
職人の手によって加工され、大陸へと運ばれてゆく。
大陸との交流地点となっているのは、島の最北端にある梁寧の港のみ。
そしてまた、梁寧への船が出ているのは、
大陸の中でも限られた町――すなわち、大邑のみ。
碧峰島は、良くも悪くも、「閉じた島」だった。

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2007.09.01 Sat


兄はいつも、海の向こう側を見つめていた。
「いつか必ず、“あちら側”に行ってやる」
――それが、兄の口癖だった。
“あちら側”に行けば本当の自分が試されるのだ、
そう言って、島の外れの岬から、対岸の大陸をじっと見つめていた。
そして兄は、ついにそれをやってのけた。
父も母も、そして自分のことも置いて、たった独りで行ってしまった。
キトにはそれが、たまらなく悲しかった。悔しかった。

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プロフィール
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オガチョ
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女性
自己紹介:
ガンダム(主に宇宙世紀)・攻殻機動隊・エヴァ・スプリガン・少年ジャンプ系のあれやこれや・FFシリーズ・キングダムハーツなどなどが大好物。小説や映画は雑食かも。
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