「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2007.09.01 Sat
「おっ。おめぇ、いい物に目ェつけたな」
言ったのは、大陸商人のトキワだった。
彼は年に数回、あちらの品を船に載せて、この碧峰島へとやってくる。
キトは自分の手の中に納まっている物をまじまじと見つめ、トキワに尋ねた。
「何? この短刀って、そんなによく切れんの?」
「いや、切れねぇ」
「は? 切れないのに“いい物”って、なんかおかしくね?」
「切れなくても、“いい物”なンだよ。その短刀は、ただのお飾りだ。
大陸で見つけたんだけど、
せっかくだから、碧峰の玉(ギョク)をあしらってもらおうと思ってな。
――でもいいや、おめぇにやるよ。持ってきな。
いつか、おめぇの役に立つかもしんねぇ」
切れない短刀がどう役に立つのか分からなかったが、
くれるものは貰っておくに越したことはない。
「……ありがとう」
ひとまず礼は言っておいた。
どういたしまして、とトキワは目を細める。
切れない、刀。
キトは短刀の柄をぎゅっと握り締める。ややあってから、顔を上げた。
トキワの目を、ひたと見据える。
「なあ、トキワ。お願いが、あるんだ」
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