「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2007.09.01 Sat
波が、船底をさらう音。
時折大きく傾ぐ船体に、キトは己の体を持ってゆかれないようにと踏ん張る。
もんどりを打つとまではいかぬとも、
常にふわふわとした足許の不安定さには閉口する。
全てが、キトにとっては馴染みのない感覚だった。
しかし贅沢は言えない。
積荷と一緒にキトを乗船させたことは、
大陸商人のトキワにしてみれば、特別の計らいなのだ。
子供1人をこっそりと船に乗せるのがそんなにも大変なことだとは、
書類とにらめっこして積荷の数をごまかしているトキワの姿を見て、
キトは初めて知った。
いつか、トキワにはこの借りを返さなくちゃな。
分不相応にも、ぼんやりとそう思う。
硝子窓の向こうには、自分が生まれ育った碧峰の島が見える。
波間に洗われ、少しずつ遠ざかってゆく、故郷の島。
キトはその島影を見つめながら、小さく呟いた。
「待ってろよ、みんな。
オレが必ず、兄ちゃんを連れて帰ってきてやるからな」
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