「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2007.09.01 Sat
大邑の町に着いたその日は、港近くの宿で過ごした。
そして翌日から早速、キトは行動を開始した。
些細なことでもいい、兄に関する情報を集めるのだ。
自らの軽快な足取りと、人並み以上の体力を活かした、
キトなりの最良の捜索方法だった。
大邑では、大きな通りから外れると、
そこはもう迷路のような路地が複雑に入り組んでいる。
建物の造りも似たものばかりなので、
よそ者がふらふらと迷いこもうものなら、ものの数分で元の道に戻れなくなるほどだ。
これは、かつて大きな戦があった時代、
この町が戦場になった時に少しでも敵の足を撹乱させることを目的として、
街区の設計がなされた名残である。
攻め込んできた敵の大半は、市街戦になるや否や、
その迷路に誘い込まれて袋小路へと追いやられ、
最終的には無残な末路を迎えることとなったのだ。
そしてキト自身も、例に漏れず迷い人となって裏通りを歩いていた。
「あっれぇー?
この置物、さっきも見たような気がするんだけどなー」
独りごちながら頭を掻くその様子からは、
行方不明の兄を探しているのだという危急さは、欠片も見当たらない。
「んんんー、まっ、いっか。
適当に歩いてれば、そのうちに店か何か見えてくるかな」
非常に前向きな発言をすると、キトはそのまま歩き続ける。
“とりあえず手当たり次第に聞き込みをする”――それが、キトの立てた作戦だった。
が、しかし。
宿を出てからすぐに裏通りへと迷い込んでしまったため、
実を言うと、まだ誰にも聞き込み調査ができていないのが現状だ。
そんなキトに救いの手を差し伸べるがごとく、路地の先に人影が見えた。
その人影は、道端に放置された箱の上に座り、ぼんやりと空を眺めている。
どうやら、キトと同年代くらいの少年のようだ。
「おぉ、第一まちびと発見!」
キトは安堵の息をつくと、満面に笑みを浮かべて少年へと駆け寄る。
「なぁなぁ、ちょっと訊きたいことがあるんだけどさー!」
その声に、箱の上の少年がこちらを見やった。黒い短髪に、髪と同じ色の、冷たい瞳。
――刹那、キトは本能的に立ち止まる。
自分の中の危険信号が、大急ぎで警告を発し始めていることに気付く。
すさまじい速さで全身の血がどくどくと波打っている。
少し開いた口で浅く呼吸を繰り返し、キトは何とか平静を保った。
これは――この気配は、目の前の少年が放っているこの気配は、紛れもない、“殺気”だ。
じんわりと嫌な汗をかいているキトを見つめ、少年は薄く笑みを浮かべた。
「ねぇ。ここ、誰の縄張りか分かってんのかい?」
覚えず、キトは頭上を見やる。何かの影が、ひらりと動いた気がしたからだ。
影の正体は、はためく赤旗(せっき)。その中央に描かれているのは、蠍の尾。
そこには、この町の「治安部隊」とやらを意味する集団の旗が、
これでもかというほどに堂々と翻っていた。
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