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「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2025.04.26 Sat
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2007.09.01 Sat


空に、光が走る。

相手の異変に気付いたのは、互いの息が切れ始めた頃のことだった。
力任せの拳がキトの顔を掠める音と、
その合間に聞こえる、少年自身の息遣い。

キトはふと、その息遣いが気になって攻撃の手を休めた。
防戦一方に回る。
それを好機と見たのか、少年はますます間合いに踏み込んで、
キトの懐を狙おうとする。

しかし。

少年の呼吸の乱れ方がおかしいのだ。
大きく肩をいからせていたかと思いきや、
喉の奥でひゅっと音を立てて浅い息を繰り返す。
ひどく不自然な呼吸。

キトは眉をひそめた。
目の前の少年が、技に多々荒さは見られるものの、
かなりの使い手であることは一目瞭然だ。
それなのに、らしからぬ呼吸の乱れよう。
当然のことながら、少年の息の乱れに伴って、
攻撃の鋭さも当初より各段に落ちている。

思い切って、キトは地を蹴って後ろへ大きく跳んだ。
間合いを開き、二人の少年は再び対峙する。

腰を落としたまま、キトは目の前の少年を見つめた。
技の力量などはキトとあまり変わらないだろうに、
明らかに、少年の方が息を乱し、疲労している。

上空で、雷鳴が低く唸りを上げている。
先ほどよりも近付いてきているようだ。
雨の匂いも強くなりつつある。

閃光の奔る空。

少年が大きく息を呑むのが、キトの耳にも聞こえた。
ややあってから、腹に響くほどの重低音が大気を震わせる。

「――なあ」

思い切って、キトは口を開いてみた。
構えの姿勢は崩さぬままに。

「もしかしてお前……雷が怖いのか?」

まさかなーと思いながら何気なく発してみたその言葉に、
少年は必要以上に大きく肩を震わせると、きゅっと唇を噛み締めた。
表情こそ平静を保とうとしているものの、顔は既に蒼白だ。
しかし気丈な性格がそうさせるのか、キトの顔をじっと見つめたまま、
どこまでも強気の姿勢を崩さない。構えも崩さない。

「何言ってんの? この俺が雷を怖がってるって?
 そんなこと、あるわけな……」

その言葉を遮るかのごとく、辺りが白い光に包まれる。
直後、二人のすぐ頭上で、大気を切り裂く轟音が鳴り響いた。

どうやらそれが限界だったようだ。

「――なあ」

次に少年が口を開いた時、その声は見事に震えていた。

「い、一時休戦、っていうの、ど、どうだ?」

目が、必死で訴えかけている。
早くこの場から逃げ出させてくれ、と。
他人事ではなく、キト自身もこのまま突っ立っていると危険だ。
兄を探す為に大陸まで来ておいて、落雷に遭ったなどとは笑い話にもならない。
キトは、体の構えを解いた。

「いいよ、一時休戦だ」

その言葉を合図に、二人は全速力で建物の軒下へと逃げ込んだ。
我先にと避難し、そして大きく息を吐く。
少年にいたっては、その場でしゃがみ込んで頭を抱えてしまう始末だ。
キトはそんな彼を見やり、やれやれと思いながら腰に手を当てた。
最初に見せた、あの冷たいほどの眼差しと殺気は一体どこへいったのだろう。

雷からは少し遅れて、最初の雨滴が地面を叩いた。
やがて路地裏はけぶるほどの雨に包まれた。

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ガンダム(主に宇宙世紀)・攻殻機動隊・エヴァ・スプリガン・少年ジャンプ系のあれやこれや・FFシリーズ・キングダムハーツなどなどが大好物。小説や映画は雑食かも。
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