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「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2025.04.26 Sat
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2007.09.01 Sat


少年とキト、2人の頭上で翻る旗は、紛れもない――。

「ねぇ。ここは“黒蠍”の縄張りだよ。あんた、分かってんのかい?」

箱の上に座ったままの少年が、再び口を開く。彼の顔から笑みは消えていた。
キトはそれに答えなかった。
ただ少年の瞳をじっと見つめ、彼が次に取り得る行動を予測した。
こちらが隙を見せようものなら、一気に仕留めにかかるつもりなのだろうか、
少年は先ほどから殺気を隠そうともしない。

「“黒蠍”。知らないってわけじゃないよね?
 俺たちに楯突くと、色々と大変な目に遭うよ」

言うや否や、少年は箱から飛び降りる。
猫のように軽やかに着地すると、キトへと向き直った。

狭い路地裏で少年たちは対峙する。

依然として少年を見据えたまま、キトは奥歯をぎゅっと噛み締めた。
この、殺気。
逃げられる気がしなかった。
もとより、この状況で背中を見せるだなんて、まっぴらごめんだ。
性に合わない。合わなさすぎる。

2人の間を、湿った冷風が吹き抜けた。雨の匂い。
雨。海。水。水のちから。
キトはそっと息を吸い込み、そして吐き出す。
右半身を少しだけ後ろへ引き、腰を落として構えの姿勢を取った。
体の奥底から、泉のように何かが湧き出てくるのを感じる。
雨。海。水。水の――ちから。

「へぇ」

少年が、面白そうに片眉を上げた。

「やるのかい?」

返事の代わりに、キトは腰を更に低く沈ませる。
後ろへやった右足、その親指の辺りを軸にして力をこめ、
いつでも地面から跳躍できるようにしておく。

「ちょうどよかった。俺、すごいヒマしてたんだよね」

そう言って、少年が目を細めた。獲物を見つけた獣の目。

先に地面を蹴ったのは、果たしてどちらだったのか。
一瞬のうちに、2人の間合いはなくなる。
キトが手刀で空を切れば、少年はキトのその手を叩き落す。
少年がキトの顔面を狙って拳を繰り出せば、
キトは少年のその手に少し力を添え、拳の軌道を受け流す。

空気の流れに沿った攻撃と、己の力をぶつける防戦。
荒削りな打撃と、流れるような防御。
性質が正反対の手合わせはしかし、間断なく続けられた。

互いに譲らなかった。

あたりを雨の匂いが強く包む。
遠くの空で、雷鳴が轟き始めていた。

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オガチョ
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ガンダム(主に宇宙世紀)・攻殻機動隊・エヴァ・スプリガン・少年ジャンプ系のあれやこれや・FFシリーズ・キングダムハーツなどなどが大好物。小説や映画は雑食かも。
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