「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2007.09.01 Sat
キトにとって、兄は英雄そのものであった。
具体的に、何がどう、と言葉で説明することは難しい。
ただ一つ言えるのは、
弟であるキトの目から見ても、彼に欠点などなかったということだ。
その証拠に兄は、人好きのする気性も手伝って、島の皆から慕われていた。
しかし兄は時折、岬から海の向こうを見つめ、
いつか自分は大陸へ行ってやるのだと漏らしていた。
いつか絶対に、この島を出てやるのだと。
キトには、何故兄が、
そんなにも大陸へのこだわりを見せるのかが理解できなかった。
島で暮らしていれば、家族もいるし友人もいる。
そのまま大人になって、父のように鉱山で働き、そして日々を営めばいいではないか。
わざわざ島を出る必要など、ないではないか。
しかしキトは何も言えなかった。
島を出てやるのだと呟く兄の顔が、ひとかたならぬ自信に満ち溢れていたからだ。
兄のことを思い出すとき、キトの中では真っ先にその顔が思い浮かぶ。
まるで目裏に焼きついたように、鮮やかに再生されるのだった。
その表情があまりに印象に強すぎたのだろうか、
兄がいなくなってからまだ2ヶ月ほどなのに、
キトには、兄の他の表情が思い出せなかった。
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