「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2007.09.01 Sat
船は、ようやく大邑の港へと入港した。
積荷の上げ下ろしの慌しさに紛れて、キトは地上へと降り立つ。
先に下船していた“常盤屋”の主は、
自分の従業員へ何事か指示を送っているところだったが、
キトが駆け寄ってきたことに気付くと、こちらへと向き直ってくれた。
「よぉ。船酔いはしなかったか?」
トキワの言葉に、キトは大きく頷く。
幸い、慣れない船旅で具合が悪くなることはなかった。
「ほんとにありがとう、トキワ。すっごく助かった!
この借りは、いつか必ず返すから」
キトが大真面目に言うので、トキワは口の端を上げた。
「出世払いってやつかよ」
「そう、それそれ」
「あー、無理だ無理だ。
おめぇみたいな男、歳を重ねても出世するはずがねぇ」
「なんだよそれー!ひでぇや!」
せっかくの感謝の気持ちを無下にされたようで、
キトは口を尖らせて抗議した。
対してトキワは、ふふんと鼻を鳴らす。
「おめぇの将来には期待はしてねぇよ。そのかわり、
次に生まれ変わった時にでも、めいっぱい俺様に貢ぐこったな」
意地の悪い笑みを浮かべると、くるりと背を向けて歩き出した。
キトは、慌ててその背に向かって声を張り上げる。
「見てろよ、いつかトキワよりもすげぇ奴になってやるからなー!」
トキワからの返事はなく、
しかし彼はこちらに背を向けたまま、ひらひらと手を振って見せたのだった。
<第1章 了>
PR
*Comment*