「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2007.10.05 Fri
「それにしてもあんた、強いのな」
不意に少年が、まじまじとキトの全身を眺めながらそう言った。
キトは肩をすくめて見せた。
「オレ、碧峰(ヘキホウ)の出身だから。一応は武術の心得があるんだ。
そういうお前こそ、強いじゃないか」
技は荒いけど、という言葉は、ひとまず飲み込んでおく。
キトからの賞賛に、少年は、まぁねと得意げに胸を張った。
そしてキトの目の前に、人差し指をびしりと突き出す。
「あんた、いい素材だよ。うちのボスにも言っておく。
そのうちに“黒蠍”からの勧誘が行くかもしれない」
「えっ? 勧誘って、何だよそれ、おい…!」
「まぁ待ってなって。あんたならボスも大歓迎だ」
言うだけ言うと、少年は軒下から飛び出した。雨は既にやんでいる。
「じゃあな、いい手合わせだった! また今度な!」
こちらの返事も待たずに行ってしまった。
その場に残されたキトは、呆然とその背を見送る。
「“また今度”って……。
名前も何も言ってないのに、どうやってオレのこと探すんだろ…」
呟いたが、当の少年の姿は既にない。
「……ま、いっか。なんとかするんだろ、きっと」
ぽりぽりと頭を掻くと、キトも軒下から路に出る。
肝心な、兄に関する情報を今の少年から聞き出せなかったことは、
キトの中ではさして問題ではなかった。
あいつに聞いてもどうせ、何も知らないだろう。
もっと賑やかな大通りに出て、大人たちから情報を集めた方が得策に決まってる。
そう結論付けると、キトは再び、迷路のような路地裏を歩き始めた。
この後、自分が迷いに迷って宿の前まで戻ってしまうことなど、露も知らずに。
<第2章 了>
久々の更新。
「少年」の顔が少しずつ変わってきてる…。
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