「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2008.01.29 Tue
「俺たちみんなで、国作りをしてみないか?」
それが、慶琳の言うところの“ちょっとした重大発表”だった。
「ここ大邑(タイユウ)をはじめとする大陸東部地域は、
皆も知っての通り、統治国家のない無法地帯だ。
幸いにも、天龍(ティエンロン)山脈という自然の砦があるから、
南のアル・ジャヒール王国も、北のターニア王国も、
ここら一帯には手を出せずにいるがな」
言いながら、慶琳は机上に広げた地図を軽く叩いた。
先ほどまでは酒と煙草に酔いしれていた男たちも、
今はすっかり表情を改め、皆真剣に、慶琳の話に耳を傾けている。
彼らの顔を一人ずつ見渡し、慶琳は満足そうに頷く。
そして先を続けた。
「しかし遅かれ早かれ、奴らはこの土地に攻め込んでくるだろう。
特に北のターニア王国は、虎視眈々とその機を伺っている。
目的は――分かるよな?
そう、碧峰島の“碧玉(ヘキギョク)”だ。あいつは売れば金になる。
“碧玉”が採れる碧峰山脈の採掘権を手に入れんとして、
奴らは、大陸東部を自分たちの支配下へと置きたがるはずだ。
正式な統治者もいない、法の整備も整っていないこの土地に、
異国の人間が攻めてきてみろ。
あっという間に蹂躙されちまうのがオチだ」
場の誰も、言葉を発することができない。
皆それぞれ、慶琳の言葉と意図を正確に理解すべく、
自分の頭の中で彼の言葉をじっくりと吟味している。
その中できょとんとしている戴牙の方を見やり、
慶琳は「ちなみに」と付け加えた。
「蹂躙ってのは、
力でもって、人や土地をめちゃくちゃにしちまうって意味だ」
なるほど、と戴牙は頷く。そりゃ大変な事態だ。
慶琳はさらに続ける。
「よその奴らにここを荒らされちまう前に、
自分たちでまとまって、予防線を張っておく必要がある。
その為には、ここいらで一発、
どーんと国を作るのが手っ取り早いと思わねぇか?」
にっこりと笑って提案する慶琳に、
団員の面々は互いに顔を見合わせる。
いつものことながら、この指導者の提案は突拍子もない。
しかし今回の場合、話の筋道は通っているし、何よりも、
国作りなどという壮大な目標はなかなかに面白そうではないか。
団員たちの目が、輝きを帯びてくる。
「まぁ、国を作るとは言っても、主体となるのは俺たちじゃない。
ここの――大邑の連中のケツを叩いて、焚きつけてやるんだ。
今のあいつらは、俺ら“黒蠍”に依存し過ぎていて、
自分たちの町のことすら人任せという、甚だ腑抜けた状態にある。
だから、あいつらの中に溜まった、いらねぇ毒を全部出してやるんだよ。
将来的には、土地の奴らが国を統治できるようにもっていけばいい。
俺たちはあくまでも、ただそのきっかけを与えるに過ぎないんだ」
慶琳はもう一度、場に集まる全員の顔を、一人一人見渡す。
覇気に満ち満ちた、男達の顔を。そして彼は、口角を上げた。
「俺たちの蠍は、毒を与えるだけじゃない。
その逆もできるんだってことを、思い知らせてやるんだ。
――大陸中の人間にな」
慶琳の言葉が終わるや否や、溜まりかねたように男達は雄叫びを上げた。
半地下の酒場は、熱狂の渦に飲まれる。
皆、慶琳を取り囲み、その肩を叩いたり、新しい杯を持ってきて酌を注いだりして、
自分達の前途に功業あらんことを願う。
そんな大人達の中、戴牙もまた、胸の高鳴りを抑えることができずにいた。
自分達の手による国作り。
その壮大な目標に、例の碧峰の少年と共に取り組みたい――、
そう考えることは、戴牙の心をますます奮起させたのであった。
慶琳、思いつきだけで国作りを提案。
口が立つのでそれらしい理由をくっつけてるけど、
ほんとのところは「面白そうだしー」の一言に尽きると思う(笑)
ちなみに、大陸中心に位置するナバラは中立を宣言している為、
慶琳たちにとっては脅威の対象でないという事情。
見ての通り、『天球儀のかけら』とリンクした世界観なのです。ひひひ。
PR
*Comment*