「冒険者に捧ぐ100の言葉」の更新と、気ままに描いたラクガキの掲載。
2008.01.24 Thu
その宴を提案したのは、他でもない慶琳だった。
街の一角にある居酒屋の、半地下を貸し切って行われた。
店の主はもちろん、”黒蠍”の一員だ。
室内を満たしているのは、
むっとするほど強烈な酒の匂いと、
目に痛いくらいの煙草の煙と、
そして酒瓶を片手に肩を揺らす、大人達の笑い声。
まだ酒の旨さも煙草の愉しみも理解できない少年――戴牙(タイガ)は、
大人達が羽目を外す様子を、壁際から不思議な気分で眺めていた。
そこへ、声をかけてくる者がある。
「――お、戴牙。お前、飲んでるかぁ?」
緊迫感と威厳に欠ける口調。全身を包むのは黒い拳法着。
ゆったりとした足取りで、傍らには美しい女を三人ほど引き連れて。
その手には、なみなみと酒が注がれた杯を持って。
「慶琳」
名を呼ぶと、戴牙たち“黒蠍”の指導者は、にっこりと笑う。
女たちを下がらせると、戴牙の隣までやってきて壁にもたれた。
「あれから、例の奴には会えたのか? あの、碧峰の奴」
問われ、戴牙はがっくりとうなだれた。力なく首を振る。
それを見た慶琳は、あはははと笑ってから手の中の杯を一気に飲み干した。
「それにしても、お前は相変わらずバッカだよなー。
勧誘しようと思ってる相手なのに、何で名前を聞き忘れるかなぁ。
ばーかばーか、戴牙のばーか」
屈辱的な言葉を連呼され、戴牙は思わず反論した。
「で、でもそいつ、ほんとすっげー強かったんだぜ!
碧峰島の武術って面白いのな!
なんちゅーか、こぅ……、流れるような動きの……」
「あぁ、それは”水”の構えだな。
碧峰の連中は、自然の息吹を感じて、自分の流れとするんだよ。
――戴牙。お前が言うんだから、そいつは相当の使い手だと俺は信じる。
次に会った時には、がっちりと捕まえて逃がすんじゃないぞ。
場合によっては、手段を選ぶな」
「それって、拉致ってやつじゃあ……」
「まぁ、そうとも言うな」
さらりと呟き、慶琳は戴牙の頭を軽く叩いた。
戴牙は、歳の離れたこの指導者のことを、自身の兄のように慕っていた。
そしてまた慶琳も、言葉や態度はぶっきらぼうなものの、
組織で最年少の戴牙のことを、何かと気にかけてくれている。
慶琳のその何気ない心遣いが、戴牙には嬉しかった。
「さて、と。そろそろ頃合かな」
呟くと、慶琳は壁から離れた。それを見上げ、戴牙は首を傾げる。
「何? 今から何か始まんの?」
戴牙からの問いに、慶琳はふふんと得意げに笑って見せた。
その目が、悪戯を思いついた時の子どものように、楽しそうに輝く。
「ちょっとした、重大発表があるんだよ」
久々のお題更新。
毎回、お題絵の構図を考えたりそれを描いたりするのに時間がかかるので、
今後は絵の方を手抜きさせてもらいます…。
もしかしたら、文章だけの掲載になってくるかも。
1回あたりの文章掲載量、
あまり長くならないように心がけてはいるのだけど、難しいなぁ(笑)
さておき。
キトとガチンコ勝負をした少年の名前が、ようやく登場。
戴牙<タイガ>といいます。よろしゅうに。
偶然にも、こないだ生まれた友人の息子と同じ名前で(漢字は違うけど)、
なんだか不思議な気分。
戴牙と慶琳以外の団員たちも、
そのうちに登場させることができればと思ってたり。
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